考える事とか考え方とか

「朝日川柳事件」から見る朝日新聞の体質。烏賀陽さんのツイートから。

先日の朝日新聞の安倍晋三国葬批判の川柳事件から、現在の朝日新聞における問題をフリーの報道記者で元朝日新聞の烏賀陽さんがツイートされていたのでまとめさせていただきました。
烏賀陽 弘道@hirougaya

①朝日新聞の現役社員らと面談。

今の編集幹部たちはSNSはじめネットでの炎上や抗議を過敏に恐れ、少しでも物議、異論を醸しそうな記事は「社内検閲担当」みたいな役職者が事前に原稿を目を皿にして調べ上げ、潰してしまうか無難に修正する、との由。

②若い世代の記者はそうした上層部がつくる「社風」を日ごろ先読みする習慣がついていて、そもそも議論するの起きない、無難な記事しか書こうとしない。すると問題発見能力が育たないので、現実から問題を見つけ、発問する思考ができない記者が大量に出来上がる。

③現役社員によると、朝日新聞社の編集幹部、経営者たちは、ネットでの炎上や抗議を本気で怖がっているのだそうだ。体面が悪いとかそう言う心理的な理由ではなく、あたかも業務上の失敗であるかのように怖いのだと言う。

④私は朝日新聞の社員だった頃から、賛否両方どちらも起きる記事、議論が起きることで読者に思考を促すような記事こそが本望だと考えていた。しかし今の朝日新聞の編集幹部(社長の中村史郎君が私と同期なので、幹部はみんな私より若い)はネットの炎上や批判、異論が耐えられないらしい。

⑤実は、新聞記者をずっとやっていた編集幹部たちは、読者の反応などキャリアの中でほとんど触れたことがない。取材先の官僚や政治家、会社内の同僚や上司の反応がその受け取る「読者の反応」の大半である。

私は週刊誌に10年いて、売上部数、メールやファクスで普通の読者の反応が毎日名指しで来た。

⑥読者は意外に思うかもしれないが、朝日新聞の新聞部門育ちの記者というのは「読者の反応」とはほぼ無縁のまま記者生活を送っていた。例外は取材先だけ。つまり読者そのものと無縁、その存在を意識しないで記事を書いているのが通常運転だった。

⑦そこにネット、特にTwitterはじめSNSは読者のリアルな反応を、読者とは無縁の生活を送っていた新聞記者たちにダイレクトに流し始めた。これはぬるま湯育ちの彼らには劇薬だった。あたかもエアコン付きの部屋でずっとぬくぬくと過ごしていたおぼっちゃまをいきなりシベリアにぶち込むようなもの。

⑧SNSはじめ、ネットの声が書いた人の真性の内面の発露であるとは限らない。擬悪や露悪趣味もあるし、人を不愉快にして楽しむ心を病んだ人もいる。SNS世論対策屋すらいる。しかしネットに疎い新聞社幹部たちはそうした思考ができないらしい。

⑨私の朝日新聞社内外で気づいたのは、そうした記者上がりの編集幹部たちのメンタルが弱いこと。東大京大早稲田慶応と言った偏差値上位校から来たガリ勉上がりばかりなので、褒められてばかりの人生である。自分を褒めてくれない、それどころか罵倒する他者の群れをどうして良いのかわからない。

⑩こうしたガリ勉上がり、受験勉強勝者の心理的な特徴は、自己愛(コフート以降の精神分析学の言葉)が肥大していることである。「自己愛の傷つき」にものすごく弱い。「自己愛憤怒」(同)を起こして他者に苛烈な言動や行動を起こす。

11)自己愛憤怒を起こさなくても、理性的な思考が停止する。ただただ狼狽する、どうして良いのかわからずフリーズする。パニックの心理である。

12)こうした無批判・褒め言葉ばかり聞いていたガリ勉上がりたちは、非暴力紛争を解決(conflict resolution)する能力に乏しい。そうした対立的局面の経験が乏しい。俗な言葉で言えばケンカ慣れしていない。だからネットに流れる異論、抗議、炎上、罵声に対応できない。言論コンフリクトだからだ。

13)昨今の朝日新聞社のネットの批判や炎上への社内の反応を聞いていると「お客さまクレーム対応」の出来の悪いバージョンと言う印象を受ける。

14)またこうしたガリ勉上がりの編集幹部たちのネット対応の誤りは「相手をしなくても良いネットの声」にまで過剰に反応して逆にクライシスレベルを上げてしまうこと。なんでもマジメに仕事しなくちゃと言う優等生マインドが働いてしまう。「朝日川柳事件」など典型だろう。
安倍晋三氏の国葬を揶揄して大炎上…「朝日新聞」川柳選者81歳、“豪邸暮らし”の今 文春オンライン

15)川柳はユーモア詩なのだから、安倍晋三氏国葬肯定論者が何を言おうと(それに便乗したマスコミも含む)「あれはユーモアですから」とほっておけば良いのだ。しかし優等生・ガリ勉上がりには「何もせず、ほっとくのが最良の戦略」と言う思考ができない。神経症的に何かせずにいられないのだ。

16)この朝日川柳事件は「何もせずにほっとくのが最良の選択」と言う思考ができず、パニックして軽率な行動をしたためにかえってクライシスレベルが上がった。クライシスマネージメント、リスク管理としては最低の展開である。

17)週刊誌を含め、ネットも「川柳はユーモア詩であることを忘れて、突かれて過敏にキャーキャーパニックする朝日新聞社」を見て楽しみ、溜飲を下げ、さらに揶揄しているのだ。それに気づかず、わざわざ相手が喜ぶ通りの行動をする朝日新聞社の幹部たちは愚鈍の極みである。

18)「こんな愚鈍な幹部の下で働く若い記者は可哀想だね」などとは私は微塵も同情しない。いまの幹部たちは、かつて若手記者だった沖縄サンゴ事件の時にはそう言って幹部の対応を批判したくせに、30年余りを経て同じ醜態を晒している。今の若手もいつかそうなるだろう。
朝日新聞珊瑚記事捏造事件 wikipedia

20)話を戻すと、朝日新聞社の幹部たちは受験勉強勝者上がり揃いなので、自己愛に背く読者の声に耐えられない。対応もわからない。しかしそれは甘っちょろけた話だ。かつてネット前時代は自分が見て見ぬ振りをしていた現実がSNSなどでイヤでも目に飛び込んで来るようになったに過ぎない。

21)ネット前時代、新聞記者たちの考える「読者の反応」とは、取材先の官僚、政治家、記者クラブ他社、企業、PR会社、たまにスポンサーなどとほぼイコールだった。「声なき多数」など意識に上らなかった。信じられないかもしれないが本当だ。私の実感も2003年の拙著「朝日ともあろうものが」に書いた。

22) そのネット前時代の「声なき多数」がネットとSNSで声を持ってみたら、新聞記者たちが生きていたエアコンの効いた快適な環境があっという間にシベリアの政治犯収容所みたいになった。

23)ソ連やナチスドイツの収容所のような生死をかけた過酷な環境で起きることは「自分が生き延びるためには仲間でも裏切る、殺す、食べ物や毛布を奪う」である。現在の朝日新聞社内の様子を聞いていると、悪寒がするほど似ている。

24)ネット前時代とネット後時代を比べて、よく朝日新聞社の社員が言うのは「まさか新聞がこうなるとは思わなかった」である。これなどは彼らの現実感覚の欠如を雄弁に語る言葉だ。そんな事態は1990年代から始まっていた。彼らがひたすら「都合の悪い現実」を見て見ぬ振りをしたというだけの話である。

25)ビッグピクチャーで言えば、日本の新聞は記者クラブ制度で

・ニュースという商品の原料供給の優先または独占
・競争への新規参入の妨害

=自由競争の妨害=本来なら独占禁止法違反のカルテル

さらにテレビは
・電波法免許

と言う政府の保護下で延命している「保護産業」に過ぎない。

26)追加。新聞は「再版制度」と言う制度によって小売店の価格決定権すら奪っている。これも自由競争妨害のお目こぼしの上に立脚している。

27)こうした政府の保護産業は、自由競争の下では生き残れないのに政府保護で延命し、消費者に質は悪くて価格の高い商品を送り続ける。サッチャー政権以前のイギリスの石炭・鉄鋼と似ている。

28)今となっては信じられないが、1990年代まで化粧品は再販制度の保護産業で、小売店は値下げできなかった。それが撤廃されたからマツキヨやドラッグパパスが展開し、消費者にとっては価格が下がり、利便性が上がったのである。

29)新聞の書いた記事が、出版後に読者に検証され、捏造や誤謬を証明された事件の最初が、1989年の沖縄サンゴ事件だった。そのころはまだネットは黎明期。しかし遅くともWindows95が出た1995年にはネットが新聞を検証する時代が来たことは自明だった。25年以上、新聞社は何もせず時計が止まっている。

31)早い話、朝日新聞の新聞記者たちはネット前時代は「読者は自分達や新聞をどう思っているのか」と言う現実を知らず、知ってみたらあまりに侮蔑と憎悪に満ちていて、衝撃のあまり自我が崩壊したのが現況である。

32)何かに似ているなと思ったら、夫婦仲が冷えながら惰性で結婚だけは続けた中年夫が、初老になってから妻に離婚届を突きつけられて茫然自失、と言う情景にそっくりだ。妻は(=読者)夫(=新聞社)などとっくに見捨てていたのだ。

33)なぜ私が30を超えるツイートを書き連ねたかと言うと、新聞社の編集幹部たちは「読者は自分の記事や会社をどう思っているか」など知らない、無関心なままキャリアを過ごす、という事実を一般の人は知らないことに気づいたからだ。ここに壮大なループホールがある。

34)読者は勝手に「新聞社や新聞記者は読者の声に耳を傾けてくれるものだ」と言うありもしないフィクションを現実と思い込んでいる。

35)日本の新聞記者たちは「記者クラブ・取材先官僚・政治家・企業広報・新聞社内」という一般社会からすれば特殊空間としか言いようのない場所だけを移動して生きている特殊な生物であり、年数を重ねれば重ねるほど現実感覚を喪失していく。当人は現実を深く理解しているつもりなのでタチが悪い。

36)読者の投稿川柳を批判されて「あれはユーモアですから」とすら言葉が出ない滑稽な有様を見て読者は「なぜこの人たちはかくも愚かなのか」と不思議だろう。しかし、朝日新聞上層部にいる人材の大半が、入社以来そうした特集空間でしか生きたことのない特殊生物なので、現実社会の感覚がないのだ。

37)チョウチンアンコウとかリュウグウノツカイとか水深200m以上の深海に住む魚を海面まで引き上げると、死んでしまう。深海と言う特殊世界でしか生きたことがないから、それ以外に出ると死んでしまう。日本の新聞記者はそれに似ている。

38)川柳を安倍晋三国葬肯定論者が批判してネットが大炎上、週刊誌に揶揄されても、私なら何もしない。何も言わない。ほっておく。クライシスでは「敵対者の望むものを決して与えない」が最良の戦略だからだ。

39)ついでにちょっと気を利かせるなら「朝日川柳などという極小マイナーな読者投稿欄にかくも多大なご注目をいただき、大変嬉しく思います。これを機会にますます川柳と言うユーモアが興隆することを願ってやみません」とコメントしてやればよい。自虐的かつ侮蔑的な隠微なユーモアで返せば良い。

40)かつて朝日新聞社にいて、同期入社が社長をやっていると言う年齢の私が驚愕するのは、朝日新聞上層部がこの程度のユーモアすら使えない、無視するのが最良の戦略ということすら分からない、日本社会でもかなり愚鈍な部類の組織に成り果てたことだ。

41)私が10代の時、朝日新聞の一面コラムに「自民党閣僚がゴルフの相談ばかりしている秘密録音テープを入手した」と言うエイプリルフール記事?が出た。馬鹿な自民党幹事長がマジメに抗議して面白くなったと思ったら翌日同じコラムが「あの冗談は冗談でしたとしか言えない」と書いてまたゲラゲラ笑った

42)書き言葉を使ってマスメディアで読み手とコミュニケーションすることを生業とするなら、この程度のユーモアが使えることは職業的技量の範囲内である。それがもうできない。恐るべき劣化、知的退廃というほかないのだ。

43)「個人としては有能な記者もいるが、組織の力学が足を引っ張って云々」というような甘ったれた弁明にはもううんざりした。もう20年以上同じエクスキューズが出てくる。

そんなことは読者には関係がない。最終製品である記事、新聞がダメなら、それはもう生産者としておしまいなのだ。

44)いうも馬鹿馬鹿しい組織論の初歩だが、組織のパフォーマンスは

構成員個人の能力×組織の能力

の積である。どちらが極小になっても積は極小になる。

45)私が朝日新聞社を辞めた時に自省と自戒のために書いた「朝日ともあろうものが」という本は「そんなふうに過剰な期待をすべき朝日新聞はこの世界には存在しない」という読者への警告としてこのタイトルをつけた。それを理解した人はほとんどいなかった。

46)精神分析学者の岸田秀は「官僚病の起源」の中で「日本人は『人格者の全き統治者がいて国を統べてくれている』というファンタジーによって心の安定を得ている」と指摘した。この統治者の中に「新聞やテレビ」も分類されると思う。

45)付記
私が2003年に朝日新聞を辞めた時「この組織にいても記者としての未来はない。摩耗するだけで人生そのものにマイナス」と確信したのを覚えている。当時拙著「朝日ともあろうものが」にも書いた。残念なことに、その時の私の確信は正しかったことが証明されてしまった。

45)付記2
私が渾身の警告のつもりで「朝日ともあろうものが」を書いたのに、残った朝日新聞の社員(特に同期入社組とか出版とか近い人間ほど)は悪罵と憎悪を投げつけてきた。わざわざ罵倒メールを送ってきた浅井とかいう先輩もいる(大切に保存)。ロトやノアはこんな気持ちだったんだなあと得心した。

あの川柳事件では、15、16の
朝日川柳事件は「何もせずにほっとくのが最良の選択」
だというのは、僕もそう感じた。それだけに朝日新聞の対応を非常に残念に感じていたのだが、なるほどこれを読んで理解できた。

今度、「朝日ともあろうものが」や烏賀陽さんの他の著書も読んでみようと思う。

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昭和47年生まれ。生まれた時からカープファン。 姫路生まれ姫路育ち。現在は相生市矢野町榊。 パソコン販売・修理・組立、出張サポート、ホームページ制作・WEBデザインなど。 奥さん1人と4男の父 真宗門徒
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