この作品の原作が、漫画『この世界の片隅に』こうの史代
この作品はもともと僕は連載で読んでいた。ただアクションという隔週刊の雑誌だったこともあり、わりと流し読みだったせいでそこまで詳しく覚えていない。というかほとんど覚えてないかな。むしろこうの史代作品としては、それ以前の『さんさん録』のほうがはっきりと覚えている。
そんなことでほぼまっさらな状態で映画を見ることができた。初めに驚いたのがめちゃくちゃ流暢な広島弁だった。まんがで読むともちろんそうなんだが、いざ音声になると絶対ネイティブな人かと思いながら、どこか聞いたことのあるような懐かしさを覚える声で、エンドロールでわかったのだが、のん、という人だった。
もともと能年玲奈(のうねん れな)といい、なんと神崎郡神河町の人じゃないか。のんさんのことは地元の出身として噂には聞いたことがある。それにしてもあそこまで上手く広島弁をしゃべれるもんなのか。全く違和感がないどころか、達川さんレベルのネイティブ広島んだった。これはきっと方言指導がすごいに違いないと、エンドロールで方言指導って見当たらなかったのだが、広島弁監修 挧野幸知(とちの ゆきとも)、広島弁ガイド収録 新谷真弓、のお二方の名前を見つけた。
挧野はとちのとお読みするんだろうかと思い検索してみると、なんと呉出身の俳優さんで『仁義なき戦い』に出演されていて、この作品では船頭・和尚・憲兵・闇米屋のばあさん・空襲警報の声・玉音放送の1人6役をこなされたらしい。なんとも想像を超えたすごい人だった。
広島弁ガイド収録の新谷真弓さんも同じく呉出身の女優、声優さんで作中の北條サン、周作の母(すずの姑)役をされているらしい。
これはだけど、指導されるほうも実際に演じたほうもお互いにすごいと思う。闇市に出かけた主人公、すずが帰りに道に迷って帰り方を教えた女性が「あんたも広島の南の、海のほう?」と聞く場面がある(55分前後)。言葉で違いがわかったと。これはもう呉の人にしかわからん感覚だろう。我々で言えば、姫路市内で浜手の人間かどうか違いがわかるレベルである。逆に言えばそこまで方言にこだわったということだ。
前半はこうの作品らしい、心地のよい広島弁でこうの史代の世界全開のとてもおだやかな作品だった。描かれてるのが昭和15年から19年かな。だが後半の昭和20年になって空襲がはじまるところからはやっぱり戦争映画で。
とくにあの時限爆弾の場面の表現力よ。こうのさんの作品であんなおそろしい場面を見ることになるとはつゆほども思ってもみなかった。そして8月6日のシーン。やっぱりね戦争映画なんよ。
あと、これはたまたまなのだがちょうど今(2025年10月)、高市総理大臣が誕生してにわかにきなくさい情勢になってきた。その最初の一歩ともいえる法案のひとつが「スパイ防止法」だ。そしてこの作品ではいくつかの引用があり、そのひとつが長谷川町子さんの『サザエさんうちあけ話』である。これがその元ネタの場面。

画像はXから拾いました。
海の見える丘で、海に浮かぶ軍艦のスケッチをするすずがスパイと疑われて憲兵に連れて行かれる場面が、映画では47分45秒あたりからある。まさにこれがスパイ防止法の問題を描いたものである。
サザエさんうちあけ話
(2025年10月29日時点)
こんな場面も含めて見どころの多い作品だった。
あと、オープニングのクレジットで潘めぐみさんの名前を見つけて勘違いしたけど、娘さんのほうなんだな。お母さんが潘恵子さんで、何年か前に知ったけど有名な声優さんなんだよ。誰でも1度は聞いたことある。親子2代で声優ってのもすごいな。
大人も子どもも1度はみるべき作品だった。☆5、100点だよ。
📽️ 映画『この世界の片隅に』情報
項目 詳細
公開日 2016年11月12日 (日本)
監督・脚本 片渕須直
原作者 こうの史代
原作 漫画『この世界の片隅に』(双葉社)
制作 MAPPA
配給 東京テアトル
劇場公開日 2016年11月12日(日本)
ジャンル アニメーション/ドラマ/戦争
製作年 2016年
製作国 日本
上映時間 130分
字幕・翻訳 日本語作品のため該当なし
音楽 コトリンゴ
主題歌 コトリンゴ「みぎてのうた」声の出演
のん (北條すず)
細谷佳正 (北條周作)
稲葉菜月 (黒村晴美)
尾身美詞 (黒村径子)
小野大輔 (水原哲)
潘めぐみ (浦野すみ)
岩井七世 (白木リン)
澁谷天外 (北條円太郎)🎬 作品の持つテーマとみどころ(コンセプト)
昭和19年、戦時下の広島・呉を舞台に、絵の得意な少女すずが呉の海軍に勤める北條周作のもとへ嫁ぎ、困難な状況の中でも懸命に日々の暮らしを紡いでいく物語です。**「戦時下で失われていく日常」と「それでも続いていく小さな幸せ」**が対照的に描かれます。徹底した時代考証に基づくリアリティと、すずの視点を通して描かれる、ささやかでかけがえのない生活の描写が深く共感を呼びました。
大切なものを失いながらも、前を向いて生きる主人公すずの姿が、国内外で高い評価を受け、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞や第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位など、数多くの賞を受賞しました。
この世界の片隅に【新装版】 (下) (ゼノンコミックスDX)
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