5月4日の巨人戦。ドラ1ルーキーの栗林良吏が開幕から14試合連続無失点を記録した。これはドラフト制以降の新人では、19年のソフトバンク・甲斐野を超えるプロ野球新記録。
栗林は開幕からここまで14試合、14回に投げて8セーブ。被安打3、被本塁打0、21奪三振の驚異的な数字。これを甲斐野と比べてみたかったが、ちょっと見つからなかった。
そして「新人」で無い開幕からの連続無失点の日本記録は、2016年に田島慎二(中日)がマークした31試合。
「開幕から」の縛りを除くと、2006年に藤川球児氏(元阪神)が記録した38試合が最長となっている。
さて、この先栗林がどこまで記録を伸ばせるだろうか?低迷するチームにおいて希望の光になってくれるルーキーに感謝したい。おめでとうございます。
以下、田辺一球・広島魂
赤の魂より
5月4日
クローザーの資質4大きな拍手を背に、いつものように2度、帽子を取り、頭を下げてマウンドに上がった。きのうは初めてビハインドの場面で出番が回ってきた。きょうは1対1同点のシチュエーション。1点取られるとチームの負けはおそらく6に伸びるという厳しい状況だった。
手に汗握る1万6362人のファンが見守る中、先頭の代打亀井をフォークで空振り三振に仕留めた。4月9日には真っすぐで空振り三振を取った相手だ。間髪入れず3球勝負に出た。
しかし続く梶谷には2ボールにして甘く入ったカットボールをレフト線二塁打にされた。初対戦でも相手の方が上手だった。まだまだこの世界にはつわものが大勢いる。
すでに2度対戦していずれも内野ゴロの坂本を今回も三ゴロに打ち取った。走者をくぎ付けにできたのが大きい。最後にして最大の難関を前に、石原貴規とのバッテリー間で低目のフォークという選択肢を残すことができた。
ファンの目にもプロ野球関係者の目にも「強心臓」に映る栗林はまさに「死ぬかという思い」で開幕からここまで修羅場を潜ってきた。プロ野球タイ記録のきのうまでの13試合で走者をふたり背負った日が一度だけある。
4月24日の東京ドーム。6対3ではあったが丸、若林を歩かせ無死一、二塁にした。そのあと3人を抑えてセーブを挙げたものの球数21は唯一の20台。佐々岡監督からも「反省」を促され、そして翌日は12球でまたセーブをマークした。
丸を歩かせた原因のひとつにその構えに隙がないことがある。懐が広く、両サイドや低目、どこに投げても捉えてきそうな雰囲気がある。森下のカーブをスタンドに運んだように緩急にも強い。
リードする石原貴規も二死二塁となって丸を打席に迎えたところで腹を決めていた。過去のチャートで“丸対策”はすでに頭の中にあった。初球、フォークのサイン。ワンバウンド。次もフォークがインローに決まってストライクが取れた。3球目もフォークがワンバウンドした。さすがは丸だ、途中でバットを止めた。“それ”を見越して乗ってこない。
ここで151キロの快速球に切り替えて外角でストライク。勝負球のフォークも甘く入ればやられる。ワンバウンドする球で空振り三振。前回対戦では1球も投げていなかったフォークを4球。この日投じた14球もまた忘れられないものになった。
「記録のことは本当に気にならなかった。ゼロで帰りたい、抑えたいという気持ちだけでした」
新聞やテレビは「記録」「記録」と騒ぐのが仕事。かつてプロの道を諦めかけたのだから注目されることに遣り甲斐は感じても、それ以上に大事なことがたくさんある。その中のひとつが入団会見などで何度も言ってきた「なかなかもらえる番号でない」背番号20に対する特別な思いを実践すること。
「プレッシャーでしかないんですけど、それに勝ってこそのプロ野球選手だと思う。期待に応えて1年目から活躍したい気持ちでいっぱいです」
昨年11月30日に名古屋市内のホテルで仮契約した時にそう話して以来、プレッシャーからは一日たりとも逃れられてはいない。自分で記録を調べて「抑えなら26セーブを目指したい」と永川投手コーチの新人記録の上を行きたいとリップサービスもした。
でも実際、どこまでも親身になって自分のことを考えてくれる永川コーチらと毎日、顔を合わせるようになり「恩返ししたい」という気持ちはどんどん強くなった。自分のためにマウンドに上がるのではない。プロ行きを後押ししてくれた人たちや自分をこの道に導いてくれた関係者、育ててくれたみんなのために「死ぬ思い」を乗り越えていく。
森下の背中を追いかけるつもりでこの世界に飛び込んだのに結果的には別の道を歩むことになった。最終決断した佐々岡監督にも感謝の気持ちでいっぱいだ。
ドラフト制以降では2019年のソフトバンク甲斐野央が持つ記録を更新するデビューから14戦連続無失点の快記録。でもまだ挙げたセーブは8つ。佐々岡監督の106セーブの13分の1、永川コーチの165セーブの20分の1、いつか必ず手痛い負けを受け止める日がくる。
たて続けに打ち込まれたり、ストライクが入らなくなったり、どこかを痛めたりしながらそれでもマウンドに上がるのが守護神。甲斐野は残念なことに右肘じん帯を損傷して今は復活を目指す日々を送っている。「北別府さんや永川さんのように…」投げ続けるタフな肉体やメンタルも背番号とともに引き継ぐことが求められる。
田辺一球 広島魂
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